ファンタジーものの巨大な昆虫類を考える

ファンタジーものの巨大な昆虫類を考える

ファンタジーものを読んでいると、巨大な昆虫型のモンスターが出てきたり、ケンタウロスやアラクネと言った実際の動物に人間の上半身を取り付けた生物が登場したりする。これらのモンスターの構造がどうなっているか、ということが時々気になる。

昆虫 飛ぶ 翼 · Pixabayより

まず前半の昆虫の場合、彼らは気管で呼吸をするのだが、この呼吸方法は現在の昆虫のサイズであれば呼吸器用の体積を別途用意せずに済むので効率がいい反面、そのことから体長、体幅方向への巨大化は難しくなくとも、体高方向への巨大化ははなはだ難しいと言える。

昆虫やクモのような小型の動物では、酸素や二酸化炭素を粘性の高い血液で組織に運ぶより、粘性の低い空気を担体にし、直接組織に届ける方がはるかに効率がよい。しかし気管系はガスの運搬を拡散に依存するため、体サイズの増大とともに急速に呼吸効率は悪くなる。これが昆虫やクモが一定の大きさ以上に大型化できないひとつの大きな理由となっている。

気管 – Wikipediaより

では平べったい2D方向であれば大きくできるのかと言うと、今度それをどうやって支えるかと言う問題が出てきてしまう。ご存知のように昆虫類の腹部は非常に柔らかい。であればそれを支える、もしくは吊り下げるなんらかの仕組みがなければ、座布団のように平らに広がった腹部はズルズルと地を引き摺るしかないだろう。実際問題、巨大な腹を抱える女王アリはその腹部を地面に着けっ放しとなっている。つまり、ミミズのような足を持たない環形動物であればともかく、一旦は6本足を獲得した昆虫類が長く成りすぎたり幅広に成りすぎるのは(水棲昆虫でもない限り)難しい。したがって特別な進化が起きない限り、XYZのすべての軸に対してある程度以上の巨大化はありえないと見ていい。

特別な進化というのは、例えば気管から得た酸素を体内深部へ送る手段を設けるか、あるいは肺のような酸素交換用の特殊器官を発達させるか、ということになるだろう。ところが気管で得た酸素を全身に回そうとすると、昆虫の場合は大きな問題が生じる。それは循環器系がちゃんと閉じていないため、血管を通じて体内に効率よく酸素を配給することができないという点だ。

これについては昆虫類の循環器系 – 岩堀修明ブログの記述がわかりやすかった。

 昆虫類の循環器系は、開放循環器系(開放血管系)である。動脈は、いずれも途中で切れている。動脈を流れてきた血液は、動脈の断端から、体内に流れ出すことになる。体内を循環した血液は、心臓の外側壁に開く心門を通り、心臓にもどってくる。
昆虫類の遠い祖先は、環形動物であると言はれる。したがって、昆虫類の循環器系の祖先も、環形動物の循環器系である可能性がある。そこで、昆虫類の循環器系は、環形動物の循環器系が変化したものであると仮定して、両動物の循環器系を比較してみたい。
環形動物の循環器系は、縦走血管と輪走血管より構成される。この循環器系で、すべての血管を、背腹方向のほぼ中央部で切断して、循環器系を背側半分と腹側半分に分断する。そして、背側半分だけを残して、腹側半分が消滅してしまったと考えると、昆虫類の循環器系によく似たものになる。環形動物の縦走血管のうち、背側血管の後方部が昆虫類では心臓となり、前半部は前大動脈になった。輪走血管は、外側動脈に変わった。昆虫類の循環器系は、環形動物の循環器系が変化したものだと考えると、心臓の位置や形、動脈の走行などを理解しやすい。

進化においては、一度消えてしまったものが復活することはほとんどなく、多くは違うものを似たような機能に充てることで再現させるのが精々だ。それを考えると、昆虫が巨大化するプロセスで循環器系が復活することはまずあり得まい。

では肺、もしくはそれに似たものを発達させることができるかとなると、肺に変化するような浮き袋状のものがないため、これも難しいと思われる。そもそも浮き袋のようなものを体内に設けるには体を巨大化させなければならないワケで、それこそ卵が先か鶏が先かといった話になる。それになにより、魚が浮き袋を体内に設けられるほどに巨大化したのは、ひとえにそれが体重を支える必要のさほどない水中生物だったからであり、既に地上に上がってしまっている昆虫がそうしたプロセスを辿るのははなはだ難しいと言えるだろう。

従って、万が一昆虫が巨大化するのであれば、水棲の昆虫が水面下で長く生活するための空気袋的なものを得、それが成功して巨大化し、しかる後に再び地上に戻ってくる、といった進化プロセスを踏む必要があるのではないだろうか?(この項つづく