美味しかった西川口 〜滕記熟食坊編〜

美味しかった西川口 〜滕記熟食坊編〜

先達て計画した西川口遠征を実行してきた。連休の中日 なかび の実行ということで参加者が元々少なかった上にキャンセルが相次いでしまい、主謀者のTは息子を、私は家人を無理やり誘ってやっと最低催行人数の4名に達した時には前途を危ぶまずにはいられなかった。

珍しく待ち合わせに余裕を持って到着したTと共に、まずは西川口駅西口に出て、中華街化が進んでいるとネットで読んだ南側をうろつく。

確かに日本語表記のない、あるいはあっても控え目な、主役が中国語である看板や説明書きがズラリと並んでいて、ちょっと日本離れした一画になっている。ただ、こちらが思っていたほどの密度ではなく横浜の中華街のように10割中華という感じではなく、6〜7割中華という感じだし、それほど範囲が広いわけでもない。もちろんそれでも十分に中華率は高いし、西川口という場所を考えれば十二分に広い一画ではあるのだけれども。

また、中華系ほどでないがタイ系レストランやムエタイジムなどもあり、東南アジア系の人たちも増えているのだろうことが察せられた。反対に韓国系は少なめで、かつ潰れたっぽいところもあり、風俗浄化作戦に巻き込まれるようにしてこの一画からは韓国系が追いやられつつあるように見えた。

中華街が思ったよりも狭くて時間が潰れなかったので、バンコクストア アジア物産とあるお店を覗く。名前の通りタイ食材やタイ雑貨が雑然と並ぶ店内には、マレーシアに行った時に見かけたような調味料やレトルトパックが並ぶ。少なくないレトルトパックがクノールやマギーの商標が付いていて、鯛でも外資の侵略が激しいのだなと感じる。

棚を見ていくと、家でタイ風カレーを作る時に欠かせないMAE PLOY メープロイ の400gカレーペーストが350円で売っているのを見つける。普通でもこのお値段ではあまり売っていない上に送料がかかるので、小田原ではこんな単価では手に入らないのだ。これ幸いと喜んで赤と黄色のカレーペーストを買っていく。

ちょうどいい頃合いになったので、4人で最初の目的地である滕記熟食坊 とうきじゅくしょくぼう へと向かう。ここに予約の電話を入れた時には、最初に「ニイハオ」と言われ「ああ、中国人相手がメインのお店なんだ」とちょっとたじろいだ。13時の開店とほぼ同時ということで店は空いており、お昼なら予約はなしでも問題なさそうである。

東北鍋料理と書かれた立て看板を横目にお店に入ると、大きめのテーブルの真ん中に設えた巨大な丸鍋に驚かされる。ネットで知ってはいたはずなのだが、実際に自分の目で見ると「こんなに大きかったのか!」と思わざるをえない。その鍋の大きさと、簡素な造りのテーブルに、なるほどかつて満州と呼ばれた中国東北地方の雰囲気がコレなんだな、と感じる。

目的の鍋のメニューを見ると左ページに鶏、野菜、魚の、右ページに豚肉の鍋が載っている。右ページに写真のないメニューがあるので尋ねると牛肉のお鍋だという。初めてなので無難に豚肉の排骨のお鍋を頼む。

鍋を注文するとパンをいくつ焼くかを訪ねられる。パンは一人1個か2個で、写真にはたっぷり焼いてるけれどもこんなには付けられないんですよ、と恥ずかしげに笑うお姉さんに各人一つずつで、とお願いする。鍋は15分くらいかかるということなので、ついでにモツの盛り合わせを頼んでビールを飲むことにする。

やがて鍋の材料二皿と油と醤油(らしきもの)と香味用のネギ、ショウガなどが運ばれてきて、鍋の蓋を持ち上げながら手早くお姉さんが具を炒めだした。

え、これじゃ鍋じゃなくて炒め物では? と思っていると、そのまましばらく放置したのち、今度はアルミ薬缶を持ち出してきて、ドボドボと出汁をたっぷりと注ぎ込む。これで無事炒め物が鍋に変身したワケだ。

再び鍋に蓋がされたところで、モツの盛り合わせが登場する。この盛りで1280円は実にお安い

横浜の豚の味珍 まいちん で見なれた、豚足、豚耳、豚舌、豚胃、カシラ、尻尾が並んでいるが、煮込んでトロトロになった代わりにゼラチン質以外はほとんど感じられなくなっている味珍のそれとは異なり、かなりコリコリ感と肉としての旨みが感じられて美味しい。その分、トロトロ、プリプリの食感の嬉しさは少なく、どちらを良しとするかは人に拠るだろう。私はどっちも好きです(笑)。

4人で「このモツとビールだけでも結構満足するねぇ」などと言っているうちに鍋からは湯気が立ち上り出す。すると今度は黄色いパン種が運ばれてきて、鍋の周囲にパンパンと音を立てて貼り付けられ、三度蓋が閉じられる。なるほど、ナンのように鉄鍋に貼り付けて、鍋の蒸気でパンを蒸し上げるのだ。

そのままモツを平らげていると、ややあって、お姉さんの手で鍋の蓋……というよりもお風呂の蓋という感じの木蓋が開けられる。盛大に吹き上がる湯気の下に現れるお鍋の具たち!

鍋というより煮込みという感じで、どれも味が染みてほくほくして旨い! 特にお豆が出汁を吸って素晴らしい。トウモロコシも甘くないタイプのトウモロコシで、出汁を吸うとコレがイケる。カボチャも排骨も醤油味で軽い甘味で煮込まれていい感じだ。ジャガイモは最初と最後では味の染みようが違っていたので、最後に食べるのがよろしかろう。

パンも素朴な蒸しパンで、小麦の甘味がなんとも言えない。鍋の味が濃いので、箸休めにちょっぴり齧っては鍋に戻ると幸せである。ちょっぴり失敗したのは、スープやパスタのソースをフランスパンで拭うように、最後に鍋に残った汁や具をこそげ落とすのにパンを残しておかなかったことだ。これを齧ったらさぞかし美味しかったろうに。

食べている間も鍋を弱火で加熱していることもあり、とにかく食べていると体が温まる。なるほど寒い中国東北地方の料理である。冬にみんなで食べに来たいと思う。特に鍋が二つある席をもらい、片方で魚、片方で肉を頼んでいろんな鍋を楽しみたい。4人で鍋ひとつだとそれだけで満腹になりかねないので、鍋ひとつに5〜6人でサイドメニューもいろいろと味わってみたい。

そんなことを思いながら鍋を食していると、人もいないテーブルでお姉さんが鍋を作り始める。何をしているのだろう、と思っていると、しばらくして鍋のでき上がりそうな時分に女の子たちがスマホを弄りながら入店してきた。なるほど、でき上がるまで時間がかかるから、常連さんはそれに合わせて鍋を作っておいてもらうらしい

味と、初めての満州鍋料理の体験にすっかり満腹となって、遅い昼飯を終えた我々は、最後に4人で9100円のお勘定の安さに驚かされながら、再訪を期してお店を出ると、再び西川口の町へと歩を進めたのであった。(この項つづく