小田原行き終電での個室争奪戦

小田原行き終電での個室争奪戦

Caution! 今回のエントリーには美しざらかる(←修辞的表現)表現があります。 Caution!

saraボジョレーヌーヴォーの解禁日ということで、友人B、Tの行きつけの酒場サラ(猿楽)で飲みまくる。後で来たHも含めて4人で4本、しかも体調の悪いBは控え目、Hは遅れての参加ということで、実質Tとの二人で3本空けるくらいのペースだった。冷やしたヌーヴォーは飲みやすく、常温のヌーヴォーはわずかに赤ワインらしさが出てて楽しく、しかも肴は旨く、唯一テレビで中継中のプレミア12での敗戦で楽天ファンとしての立場を無くしたものの、なかなか愉快な宴会であったのだが(←逆接の接続詞)……

23時過ぎに信濃町の駅に向かい、総武線で東京駅にたどり着くと東海道線ホームに向かう。さすがに足下が定まらず、ホームのベンチに腰掛けると、ベンチの反対の端から先達の残した流動体が線路に向けて流れた跡が見える。先達の無事を祈りながら、やがて滑り込んできた小田原行きの終電に乗り込む。

空いた車両のクロスシートに腰かけてウトつくが、品川で満席になった辺りから胸元に酸っぱい思いがこみ上げてくるようになる。幸いなことに無料の完全個室から一番近いクロスシートであったので、そのまま個室に飛び込んで熱い思いを思いっきり密室の中にぶちまける。まだ胸にはくすぶるものを抱えつつも、快適空間を占有するのも心苦しかったので、手洗いの水で口をゆすいで個室空間を出る。

幸か不幸か、立った席は既に他の方に使用されていたので、個室近くの壁に背をもたらせてうとつく。ところが横浜を過ぎた辺りで第2波の襲来を感知し、目やに増量中のまぶたを開いて個室へと向かう。

だがなんということだろう、個室はジェリコの壁で固く閉ざされているではないか。もちろん個室は万人に開放されているものであるから、当方がその使用権を声高に訴えられるものではないが故にしばし我慢する。しかし、熱く酸っぱいものはマグマのごとく圧力を増す一方であり、止むを得ず個室の扉を叩く。にもかかわらず、占有者は楕円のリングに向き合って咆哮するばかりで、こちらに応える気配はない。

仕方なく先任の業務終了を扉の前で待つも、彼の人は延々と残業し続ける。何度となくノックで退室を促すも、帰ってくるのは人ならざるうめき声ばかりである。雪隠詰め状態の先達のせっぱ詰まっている気持ちはよくわかる、よくわかるのだが、こちらの気持ちも汲んで欲しい、この込み上がるものを汲み取っていただきたい、ヤクザの借金取りか引き篭もりニートを抱える老齢の両親のような状態で退室を乞い願っておるのです、と断続的なノックで思いを伝えていると、電車が戸塚のホームに差し掛かって減速するのに合わせるようにして扉が開いていく。

扉の陰からは、まだ戦いを終えられないままに退室を促された男性が、厳しい口元と空ろな目つきで彷徨い出てくる。その後ろ姿をろくに見送ることもなく、私は再び個室へと飛び込み、下方に向けて小さくなる穴へと喉につまっていたものを思い切りシャウトする。その熱いマグマは1度ならず2度3度と私の喉を焼くが、それでも腹からは新たな軍勢が込み上がってくる勢いだ。その後も断続的に連戦を繰り返して、ようやく個室を後にした時には、列車は大船へと近づいていた。

幸いなことにノックに急かされることもなく戦いを終えることができた私が大船でぐっと空いた車中で席に座ると、次の瞬間には小田原に到着したのであった。このような激しい戦いの中で、何一つ紛失することもなく、また戦域をいたずらに拡大しないで済んだのは、まさに不幸中の幸いであったと言えよう。

戦いを終えて、家にたどり着いた時には、日付はとっくに変わっており、時計は1時半を指していたのであった。